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のぼうの城

 

 映画「のぼうの城」(原作:和田竜) を観た。ご存じのように、この忍城攻めは、豊臣秀吉の家臣である石田三成が一軍の大将として臨んだ初めての戦であったが、武将としての能力不足、いわゆる 「戦下手」を天下に示したという「関八州古戦録」「成田記」などの江戸期に成立した多くの軍記物に記載されている話が元になっている。なので、映画のなか では、三成を演じている上地雄輔が悔しがるシーンで観客が笑う場面がいくつかあった。まさに、三成の戦下手、それに対する関東武士の勇戦という、とてもわ かりやすい映画であった。だが、この忍城の逸話も含めて、現代に伝わる三成の「頭はいいが、戦下手」というのは史実だろうか。関ヶ原の戦いで、家康軍に敗 れた三成は、江戸時代の徳川史観によってダークヒーローに塗り替えられたというのが本当だろう。 それを、示してくれる2冊の本を紹介したい。

 

 「石田三成からの手紙」と「三成伝説新装版」だ。どちらも、オンライン三成会の中井俊一郎氏が中心となって書かれた本格評伝である。三成についての様々な史実は、書籍をご覧頂ければと思うが、コラムでは、「石田三成からの手紙」のなかに記してある三成の趣味について紹介する。

  三成のイメージとしては、インドア派だと見られがちだが、意外なことにその趣味とは「鷹狩」だそうだ。「鷹狩」を自由に楽しむためには、当時は秀吉から特 別な許しが必要で、それは名誉なことであった。当然のことながら三成もその許しを得ていたことになる。茶の湯を嗜む人々にとって茶道具が大切なのと同じ く、鷹狩を行うものにとっては立派な鷹を手に入れることが重要であった。三成の書状の中に狩りに使う鷹のことを記されたものが何通か存在するらしく、その 一通を本文で紹介している。三成が進上する秘蔵の鷹の素晴らしさを事細かに書き、貸し渡す相手に対しても、その鷹の扱い方についても細かく書いているそう だ。どうやら、政務で見せる細かさと几帳面さは、趣味の世界でも共通しているようで、本人の性格をよく表した、とても人間っぽい書状だということが読み取 れる。

 

 人は、どうしても先入観で相手を見てしまう。そうすると本当のことを解ろうとしないまま、相手のことを笑っているかもしれない。自分への戒めとして、これからは、できるだけニュートラルにものが見れるよう努めていきたい。「のぼうの城」を観たとき、そう感じた。

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